観終わったあと、自分は自由だな、と思った。
あらゆる自由をすっかり奪われた人が、スクリーンの中にいたからだ。
ほっこり系の映画かと思いきやかなり重いテーマが隠されていたのだけど、恨み節はなく、手仕事を通した日常の美しさや老婆の不思議な魅力によって、穏やかな気持ちで観ることができた。
あんこを作るシーンでは、コンロのスイッチを回す音、小豆に水をかける音、木べらで鍋をこそげる音など、小さな台所にこれほど豊かな音の表情があったのかと驚かされる。
河瀬直美の老人描写力は異常とも思えるほどすごい。本作の樹木希林は、とぼけた老婆・手練れの職人・無邪気な少女の側面を持ち、見方によってはひしゃげたブルドッグ・生まれたての蝉・慈愛に満ちた仏にも見える。
万人受けする映画ではないし何回も観たいとは思わないけど、この樹木希林を観ることができて良かった。
あと、永瀬正敏は、浅野忠信・大沢たかおと並んで「くたっとしたヘンリーネックTシャツが似合う邦画男優」ベスト3に入ると思う。 #映画