映画ぶろ

映画『あん』感想

観終わったあと、自分は自由だな、と思った。
あらゆる自由をすっかり奪われた人が、スクリーンの中にいたからだ。

ほっこり系の映画かと思いきやかなり重いテーマが隠されていたのだけど、恨み節はなく、手仕事を通した日常の美しさや老婆の不思議な魅力によって、穏やかな気持ちで観ることができた。

あんこを作るシーンでは、コンロのスイッチを回す音、小豆に水をかける音、木べらで鍋をこそげる音など、小さな台所にこれほど豊かな音の表情があったのかと驚かされる。

河瀬直美の老人描写力は異常とも思えるほどすごい。本作の樹木希林は、とぼけた老婆・手練れの職人・無邪気な少女の側面を持ち、見方によってはひしゃげたブルドッグ・生まれたての蝉・慈愛に満ちた仏にも見える。

万人受けする映画ではないし何回も観たいとは思わないけど、この樹木希林を観ることができて良かった。

あと、永瀬正敏は、浅野忠信・大沢たかおと並んで「くたっとしたヘンリーネックTシャツが似合う邦画男優」ベスト3に入ると思う。 #映画

幕が上がる

「演劇はひとりじゃできない」と話されるこの映画には、主人公が理解できない人間がひとりも登場しない。それどころか、演劇部の部長であり演出家である主人公は、仲間のことをよくわかっているとされている。演劇はひとりじゃできない。わかりあえないことから、多様性が生まれる。わからないものを認めることで、僕たちは豊かになる。よくわかっていると思っていた人のことを、なんにも知らなかったことに気がついた瞬間から、映画がはじまるんじゃないのか。幕なんか、まだ全然あがってないと思うんです。

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15

フォックスキャッチャー

自分を必要としてくれるとうれしい、そういう誰もが持っている気持ち。母ちゃんに、世界に、認められたくて、なまじっか金があるだけにだんだん手段を選ばなくなっていく様子は狂気でしかないけど、その怖さは生まれたときから豪邸に住む財閥の御曹司じゃなくても、オリンピックで金メダルをとったって孤独で貧乏なレスリング選手にも同じ気持ちを感じてしまうところにある。承認欲求に取り憑かれて自分のために生きるふたりは、同じ画面にうつる、奥さんがいてかわいい子供がいて、家族を守りながら生きるレスリング選手の兄から比べると幼く見える。ヘリコプターでコカインをキメあいながら、自己催眠のように自分の肩書きを連呼するシーンはすごい。レスリングという競技も、一線を越えると人を殺してしまいそうな狂気を感じさせる瞬間が見えて怖い。おもしろかったけど、怖いし、もう観たくない。

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28

花とアリス殺人事件

映画がずるいのは、わたしたちの世界と同じ素材を使って作品を作ることで、わたしたちと距離が近いというところにある。距離が近いものには興味が持てる。その一方で、映画には、具体的なかたちを持ったものしか扱えないという弱点がある。カメラが捉えたかたちが具体的であればあるほど、わたしたちとの違いが際立って、わたしたちの世界とかけ離れていく。距離が遠いものには興味が持てなくなってしまう。

「花とアリス殺人事件」は、全編がロトスコープの手法や 3DCG を使ったアニメーションでありながら、そこにはアニメーションにしかできない表現はなく、アリスはわたしたちと同じように歩いたり走ったりする。その身体からは、すべて実写で撮影していた10年前の花とアリスの「原画」としての蒼井優を思い出させるのに、しかし、アニメーションでは顔の皮膚の色は1色で塗りつぶされていて、ディテールをもっていない。わたしたちと距離が近いまま展開される抽象的な映像に、驚かされる。

シナリオもすごい。アリスが引っ越してきて、段ボールのすきまから隣の家を覗くシーン。そして、市役所にも行かずに直接中学校に転入しようとするシーン。さらに、自己紹介で前の名字を一瞬書きそうになるシーン。たったこの3つのシーンによって、アリスと、アリスの母親のキャラクター、親子の距離感が描かれてしまう。アリスの母親がアリスを「きみ」と呼ぶのも、また同じように花がアリスを「きみ」と呼ぶのも、距離感である。この距離感たちには違いがあるんだろうか?

この映画は、距離の映画だ。まったく関係のないおじいさんとなぜかすこしの時間を過ごすシーン、こんなにも距離が遠く離れた人と、わたしたちはいったいどうやって出会うことができるんだろう。おじいさんをタクシー乗り場へ背中を押すシーン、深夜の駐車場で花とアリスがバレエを踊るシーン、離れていた距離が縮まって、ついにからだに触れることができる。

実写版花とアリスのキャラクターや設定を使いながら、まったく別の物語を作ってしまえること。画面に写る具体的で抽象的なかたちのこと。まるで実写とアニメーションの隙間のパラレルワールドを覗いているかのようだ。この映画には驚いた。この映画について話したいと思える、すごい映画だった。

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19

2015/01/29

キッズリターン2が、もう見事というか、予想をここまで裏切らないものがあるかというぐらい、もう信じられないほどに凡作だった。
逆に気持ち良いくらいだなと。

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