晩春 ('49)

笠智衆はかわいい。笠智衆がにやにやしている顔は、演技をしているのか、そういう気のいいおじさんなのかわからない。さらに、原節子はこわい。原節子の笑顔が怖い。そんな原節子が父ちゃんに告白するシーンの声が、怖い…。いくら戦後の時代だって、あんな父と娘の関係が当時はリアルに感じられたのかな?

日本家屋に置かれたローアングルの1台の定点カメラが、障子の隙間からふたりの様子を捉えるカットによって、映画を観てる僕たちは自動的に見守っている人たちということになる。かと思えば、笠智衆が話すたび、原節子が話すたび、カメラは話す人を真正面から捉えて、僕たちが笠智衆になったり、原節子になったりもする。世界を見るまなざしの主体が次々と入れ替わっても、どれも同じまなざしでいることの違和感が、父と娘のファンタジーみたいな関係とよく合って、なんだかその世界観に納得してしまうのかもしれないと思った。

小津は膝の高さぐらいから世界を見つめているが、僕たちは世界を地面より高さ何センチぐらいから見ているんだろう。とにかく、情緒あるすてきな映画でした。

星5個。★★★★★ #映画

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