モンスナックについて僕が知っていること。
モンスナックは、新宿の紀伊國屋本店の地下1階にあるカレー屋だ。モンスナックは狭い。カウンター席しかないし、店の奥に座ってしまった人が帰るときはみんな前屈みになって壁とのあいだに人が通れる隙間を作らなくてはならない。モンスナックの壁には、永六輔とか、さまざまな芸能人のサインが飾ってある。その人選がちょっと渋いなと思う。モンスナックのカレーは、粘度が低い。かといってスープカレーというわけではなく、ただ水のような粘度を持っているカレーライスだ。モンスナックのカレーは、おいしいかおいしくないかどちらかといえばおいしいと思うけど、めちゃくちゃおいしいというよりは思い出したときに食べたくなるような懐かしさのほうに比重があるカレーだ。
モンスナックで注文を聞いてくれるお姉さんは、たぶん日本人じゃない。厨房のおじさんも、たぶん同じ国のアジアの人だろうなと思うのは、たまにやりとりしている言葉が僕たちにはまったくわからないからだ。お姉さんは、いつも真顔で、笑ったり、客の目を見たりしない。声がすごく小さい。でも、狭い店内ではその声で充分に伝わるし、その声のトーンが、この店の雰囲気とあわさって、モンスナックをかたちづくっている。
と、勝手にひとりで思っていたけど、きのうカツカレーを食べながら、ついにお姉さんが注文以外に声を出しているところを目撃してしまった。常連のようなおじいさんから、花火大会に行かないの?みたいなことを聞かれて、休むわけにはいかないからねと談笑していた。お姉さんが笑ってるところ初めて見たなぁ。と同時に、お姉さんがいままでどういう人生だったのか、これから仕事が終わって家に帰って何をするのか、厨房のおじさんとは夫婦なんだろうかとか、急にお姉さんがリアリティを持ちはじめてしまい、ちょっと衝撃的でした。