ほたて
幼いあの頃
帆立が大好きだった
あのコリコリした歯ごたえ
噛めば噛むほど染み出す味わい
ただ中心部はあまりいただけない
ささみっぽいというかなんというか
面白みのない味と食感だ
そう私は
帆立というのは
貝ひもメインでおまけの貝柱
と思っていたのだ
その認識が破壊されたのは
斉藤くんの誕生会だった
テーブルにならぶたくさんの料理
その中には帆立のソテー
斉藤くんのお母さんは
みんなに帆立を配りはじめる
するとだ
斉藤くんは信じられない言葉を口にした
「おかあさーん、みみ取ってー。」
なぜだ?
何を言っているんだ?
みみとは何のことだ?
貝ひもか!?ひもなのか!?
ひもを取って何を食べようと言うのだ?
愚かな!なんと愚かなのだ。
何がみみだ!パンのみみと一緒にするな!帆立の本体はひもだ!!ひもは帆立の本体だぞ!
次々と配られる帆立
遂に私のお皿に配られる順番だ
すると斉藤くんのお母さんは信じがたい言葉を発した
「みみは無理しないでいいからねー。」
無理??無理なの??貝ひもを食べるという行為は無理なのか?
貝ひもを切り離そうとする斉藤くんのお母さん
「やめてくれ!!!!!!」
そう叫ぶと同時に
私の視界から斉藤くんのお母さんは消え
いつもの見慣れた天井にすり替わった
夢か・・・
枕元の時計は3:14を指している
もう25年は経つ
それなのに私は
まだあのときの呪縛から逃れられないのだ
天井の丸い照明はひっそりと
そのシルエットを闇に浮かばせている
そうまるで
あの日の帆立の様に
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