2016/02/09

「きみたちが文章を書く時、それが、誰に向かって書かれているかを知ることが、いちばん大切だ。それが、レポートなら、そのレポートを受け取る先生に向かって、それが、愛の告白の手紙なら、きみがいちばん大切に思っている人に向かって、それが、自分以外には世界で他に三人しか理解できない数学のあるジャンルの論文なら──ほんとうに、そんなジャンルがあるそうだ。ちなみに、その論文の想定読者となる三人は、全員、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞の受賞者なのだとか──その特定の誰かに向かって、書かれるのだ。文章は、きみというたったひとつの場所から、そこではないどこかにいる誰かに向かって書かれる。きみは、それが正しく伝わるように、きみの文章の行き着く先を知らなければならない」
(高橋源一郎「ぼくらの文章教室」)

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