2015/10/09

大戸屋のそばのつゆは、しょっぱい。濃縮3倍のめんつゆを、薄めないで飲んでるみたいだ。というか、店員さんが薄めないで持ってきちゃったのかもしれない。そう思えるくらい、まっくろで、しょっぱい…。こんな感じで、大戸屋には一定の残念さがあると思う。僕だって、そもそも大戸屋に何も期待していないのだ。それでも、なにかにつけて足しげく大戸屋に来てしまうのは、小学生ぐらいのときとかに、家族で横浜まで出掛けたら夕飯は大戸屋で食べる、という習慣があったからなのかもしれない。いや、関係ない。僕は気が弱いから、大戸屋に来てしまうんだろう。大戸屋とは、つまりそんなチェーン店の定食屋である。大戸屋にいるような人たちは、つまりそんな人たちばかりなのだ。

この大戸屋はレイアウトがおかしい。2人掛けのテーブルが横向きに、縦列駐車するみたいに壁に沿って並んでいる。その横に縦長の大きなテーブルがあって、ひとりの客はそこに通されるが、2人の場合は縦列駐車のほうに座らされるという仕組みになっている。だから、僕が座った大きなテーブルのむこうに、僕の母親と同じくらいの年齢の、瘦せた女性が食事している姿を真横から見ることになる。

料理が到着し、女性はまず味噌汁にすこし口をつけたあと、小鉢のようなものに入った薬味を大きな器に移し替えている。そこまで見て、僕はかつて誰かが食事している姿を、こんな真横から見たことがあっただろうかと思った。まるで、演劇みたいだ。食べるということをサンプリングして、舞台の上で演じているみたいだ。しかし、女性にとってはいつもと同じ食事でしかない。ハッとした。ハッとしたと同時に、これは鏡だ、と思った。同じように、僕もここで、いつもと同じ、ただの食事をしているんだ。

大戸屋のそばのつゆは、しょっぱい。濃縮3倍のめんつゆを、薄めないで飲んでるみたいだ。というか、店員さんが薄めないで持ってきちゃったのかもしれない。そう思えるくらい、まっくろで、しょっぱい…。しかし、僕だってそもそもこの場所に何も期待していないのだ。僕が、僕たちがここにいるのは、気が弱いからだ。

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