細い路地をちょっと進むと2畳ほどのカレー屋があった。既に3人の客が居た。のれんのような布を持ち上げて私たちが中を覗き込むと、「あ、どうぞどうぞ〜。」と店の外に出て、私たちを奥へ通してくれた。小さな厨房には誰も居なかった。程なくして、マスターらしき人が店に帰って来た。カレーのメニューは、定番のチキンカレーと、日替わりカレーだ。今日の日替わりは、「ブリのココナッツカレー」だった。何度か来たことがある友達はブリのココナッツカレーを、初めてのわたしはチキンカレーをオーダーした。注文を受けると、マスターはお玉で鍋にカレールーを移し、二つのルーが入った二つの鍋を、同時に火にかけた。カレーが出来上がるまで、その小さな店内で、たわいもない会話がなされていた。3人いたうちの2人の女性は、いつの間にか何処かへ消えていた。残った男の子は就活を終えた大学4年生で、お金が無いことが悩みだと言っていた。同い年のバイトが多いらしく、皆が皆シフトを入れたがり、通常より週1日分少ないくらいのシフトになっているらしかった。近いうちに、友人の父が仕事をしているマレーシアに遊びに行くかも、ということも言っていた。そのお宅に宿泊させてもらうので、ホテル代が浮くとのこと。海外にゆっくり行けるなんて今のうちだから色んなところに行きなよ、など、そんな話をしていたら、カレーが出来上がっていた。大きなお皿に、半分ターメリックライス、もう半分にカレーが盛り付けられていた。ごはんの上には人参の細切りマリネと、小さな緑の葉っぱが乗っていた。すごく美味しかった。友人のカレーも味見させてもらったのだが、こちらも本当に美味しかった。普通カレーにブリ入れるかよ、と思っていたけど、本当に美味しかった。たわいもない会話を続けながら楽しくカレーを食べて居ると、「今のでラストだったから」と言って、ココナッツカレーの残りを小鉢の中に入れて出してくれた。店に入った際についでもらった暖かいお茶は、知らないうちに補充されていた。よく考えると、マスターが帰って来る前に既にお茶が出されていたようにも思えた。もしかしたら、2人の女性のどちらかが出してくれていたのかも知れない。しばらくすると、女性の1人が店に戻って来た。どうやらその女性は、明日の初デートでお弁当を作るらしく、その献立と味付けを、マスターや大学4年生に相談しているようだった。「デートでお弁当つくるとしたら、何つくりますか??」女性は私たちに聞いた。全く人見知りをしない人だった。マスター曰く、その女性はあんまり料理が得意では無いらしい。でも玉子焼きは得意なの、と女性は言っていた。味付けは麺つゆらしい。目がパッチリしていて、長い黒髪を頭のてっぺんでお団子にしていた。化粧っ気はほとんど無く、飾らないのに可愛い人で、素敵だなと素直に思った。その女性は、料理に関するメモを、なんか太めの金色ラメみたいなペンで、コジコジのメモ帳に書いていた。如何せんペン先が太めなにで、字も大き目だった。コジコジのメモ帳はマスターのもので、以前その女性が誕生日プレゼントとしてマスターにコジコジの全巻セットあげたことで、マスターが好きになったらしかった。そのコジコジのメモ帳は、楽天で「コジコジ」と検索した時に一番上ぬ出てきた、とのことだった。「コジコジの結末忘れたから、早く貸してって言ってるじゃん!」と、全巻プレゼントした張本人が言っていて笑った。
つづく